東京シングルトン的考察

「独りで立派に生きていける独身者」= シングルトン な私の日常とエンタメの雑記

G線上のあなたと私とアプリで私が出会った男

マッチングアプリで知り合い、何度かやり取りを重ね、食事の予定を入れた男性と会う直前はいつも緊張する。

 

ただ、この“緊張”はロマンティックなときめきなんかによるものではなくて。今日会う人には嘘がありませんように、とか、この時のために支度した私の時間が無駄になりませんように、とか。

自分の選択に間違いがないよう祈るような気持ちから、心が張り詰めて生まれる。そんな緊張。(ドキドキ、というよりヒヤヒヤ、)

 

「時間を無駄にした」

 

婚活パーティーで出会った男性とのなんとも言い難い微妙なデートを終えて、“也映子ちゃん”は居酒屋でそう言った。その時の彼女の気持ちが、今日の私にはよくわかる。アプリで知り合った男性とのデートのために、時間をかけたことを、今すごく後悔している。

 

“也映子ちゃん”が何者かというと、彼女は『G線上のあなたと私』(以下、長いので『G線』)というバイオリンをテーマにした物語の主人公で、寿退社するまさにその日に恋人から婚約破棄された痛みを持つ27歳の女性。

『G線』は、そんな仕事も結婚も失った彼女が、“酔狂”で通い始めた「大人のバイオリン教室」で出会った大学生/加瀬理人と主婦/北川幸恵との交流の中から生まれる友情や恋模様、また彼らを悩ます人間関係を描いたドラマ作品だった。(原作はいくえみ綾の同名漫画。)

 

もちろん、バイオリン教室が物語のきっかけになる分、作中の様々なシーンを素敵な楽曲が彩ってはいるものの、この作品は有名作曲家の名前が飛び交うような重厚な音楽ドラマなどではない。

むしろ、登場人物たちがそれぞれの生活の中で抱える問題や不安が丁寧に描写され、それらが絶妙なパンチラインで台詞として紡がれていく。その数々がまー、心に響くこと響くこと…

“バイオリンをテーマにした物語”と先ほど書いたけれど、ちゃんと言うとバイオリン教室を通して出会った3人の男女が、悩みもがきながら前を向いていく人間ドラマという説明がしっくりくるような作品だった。

 

ドラマの放送から3年以上がたった今でも、私はこの作品の中で語られた言葉に心を掴まれたまま。それほどに、ドラマの中のキャラクターたちだけでなく、日々を生きる私たちにも突き刺さり、その心情をまさに表現してくれるようなセリフがこの作品にはたくさん詰まっている。

 

さて、その中で、冒頭に書いた「時間を無駄にした」という台詞が出てくるのは『G線』の第5話。

 

悩み傷つきながらも前に進もうと婚活と就活をはじめた也映子が、参加した婚活パーティーでカップル成立した男性/白鳥に誘われ飲みに行くことに。紆余曲折あり、白鳥と飲みに行った後、居酒屋で理人と飲みなおしているシーンの中で話される。

 

「時間を無駄にした」は一見、文字だけを見るととても悲観的な思考に思えるかもしれない。しかし、作中でこの言葉は「時間を無駄にした」そのこと自体を嘆くためではなく、彼女がそこから何を得たか、どんな気持ちでこれから自分は進むのか、表明するようなために使われている。そんな也映子の前向きさがぎゅっと詰まった一場面。

 

実は、このシーン、あとに続くのはこんな言葉だった。

 

「大切な自分の時間を誰のために使いたいかってことだよ。

 一番わかりやすいと思わない?考えてみて。

 今まで自分が誰のために時間を割いてきたのか。

 それか、意識していなくてもつい時間を過ごしてしまうのは誰なのか。

 きっとそういう誰かがさ、本当に大事な人なんだよきっと」

 

この一連の台詞が本日、アプリで出会った男の人とカフェで話していた時、私の心にぺったり浮かんで離れなかった。

 

私は今日、3㎝のヒールがあるパンプスを履いていた。彼がアプリのプロフィール欄に記載していた身長を考えると、本当ならヒールを履いた私よりも彼はあと6㎝高くないといけないはず。しかし、鏡に映った私と彼は、なぜだろう、頭の高さが全く同じだった。これが今日、私が「時間を無駄にした」と思ってしまった理由の一つだ。

 

背が低い、という事実よりも、嘘を吐かれた(しかもばれないと侮られてた?)ことが悲しく、そしてその後のすべての気力を失う。

自分だって、誰かをとやかく評価できるようなすべてにおいて秀でた人間ではない。だったらそれくらい目をつむるべき、という人だっているだろうけど。だけど、私は、差し出した自分の情報に嘘はついていない。

 

身長や年収を偽る人は多い。噂には聞いていたが、これから関係を築いていこうとするまさにその人と、嘘を吐いてはじめようとすることも、そんなことを考える人が多いこともアプリを始めたここ最近で私はようやく知った。私はそんな人に、大切な私の今後の時間を使いたくない。

 

あまりにも一人で過ごすことに慣れ、それを苦に思っていなかった。それゆえ、私は20代後半になるまで、このマッチングアプリ戦国時代にも関わらず、アプリに登録した経験がなかった。

(今の私がどんな人間か、はひとつ前のこの記事に書いてあります。よかったらぜひ)

tokyosingleton.hatenablog.jp

 

だからこそ、まさかそんな、身長を盛っている男性がいることも、そんな男性がいることを想定してプロフィール欄をチェックする必要があるという思考も持ち合わせていなかった。

 

既知の人間関係からではなく、アプリを介して出会う場合はプロフィールの情報こそが相手を判断するためのすべてだ。だからこそ、どう見切るのか。それは、アプリを上手く活用するために欠かせない能力だと知った。

 

『G線』の視聴を通して、そこで語られた台詞を通して、どんな状況でももがきながら前を向く也映子の姿を見てきた。今や私には、大切な人以外に時間を使うという選択はない。もはや、生まれてしまった「無駄な時間」をそのままにしておくという余地なんかもうない。

 

ので、

 

さくっと切り上げて一人でカラオケに行ってきました~!

そういえば『G線』の也映子たちもよくカラオケ行ってたな。バイオリンが奏でる美しい「G線上のアリア」を聞いて傷ついた心が救われたり、曲の言葉に想いを乗せて発散したり。音楽の力って偉大だ。

 

だがしかし、やはりアプリへの登録は1度さっさと試しておくべきでした。

 

便利なツールがあることを知りながらも、なにもしてこなかったこれまでを「無駄な時間」とは思わなくとも、勿体ない日々を過ごしていたとは感じる。もう何度もアプリで誰かと会ったり、恋人ができたり、その結果うまくいったり行かなかったりを重ねた人は、こんな悩みはとっくに飛び越えて、有効活用できてるんだろうし。

 

ちなみに『G線』には今回紹介した他にも、素晴らしい台詞や登場人物がたくさん登場するので、婚活やアプリ、日常に少しもやもやしながら暮らしている人はぜひ。

飄々としてる(でもわりと真理突いてる)理人のお兄さん/侑人とか、侑人が抱えた秘密を知りながら「何も言わずニコニコ」し明るくふるまうその妻/芙美とかいい存在。(芙美役の滝沢カレンが特に!

 

それから最後に、すべてのマッチングアプリに登録している男性へ、これだけは言い残させてほしい。

 

身長は盛るな、会えば、絶対にばれるぞ!!!!!

 

そしてもし、嘘を吐きながらも上手くいったなら。 きっと、本当のことを知っていながらも「何も言わずニコニコ」してくれているあなたの隣にいる方の優しさを、どうか大切に。

 

 

お題「もっと早くやっておけばよかったと思う事」