東京シングルトン的考察

「独りで立派に生きていける独身者」= シングルトン な私の日常とエンタメの雑記

ブリジット・ジョーンズ(になりかけてる女)の日記。

高校生の頃、映画を見るのが好きだった私は、同じように洋画を見るのが趣味だったある女の子と仲良くなった。

 

その子と話すようになったきっかけは海外ドラマプリティリトルライアーズ』。男女共学になったばかりの私たちの学校は女子生徒の数が全体の4分の1ほど、ともともと少なく、その中で“海外ドラマをわざわざ見ているの女の子”の数は限られていた。

 

小中学生の頃に『gossip girl』が世間で流行り、高校生になると本格的な『glee』のブームが到来。そんな洋画ムービー/ドラマブームの真っ盛り時代に仲良くなったその子とは、今思えば本当にたくさんの作品について感想や情報を話しあっていたと思う。

 

『ブリジット・ジョーンズの日記』はその中でも、何度も2人の間で話題に上がる、私たちのちょっとお気に入りの作品だった。

 

主人公/ブリジット・ジョーンズは、ロンドンで一人暮らしをする出版社の広報社員で3イギリスに住む30代の独身女性。そんな彼女の設定だけを聞くと1人たくましく生きている、強くてカッコいい女性の姿を思い浮かべる人も多いかもしれない。

 

実際には、そのようにイメージされる所謂“バリキャリ”ではなく、ちょっと抜けていて、ドジでおバカな愛すべきヒロインなんだけれども。(孤独を感じて煙草を1日で2カートンも消費するような。いつもつけている日記に、体重と飲んだアルコールの数を記録しながらも、反省することがないような。)

決まりきらず、美しすぎず、完璧でない女性。等身大で時にダサい姿も周囲にぶちまけながら生きている30代の姿。作品の中で描かれるブリジットの毎日は、確かにかっこよい生き様ではなかった。けれども、まだ高校生の私たちにとって、彼女は少しだけ遠くにいる“お姉さん”だった。

 

私達は映画の中で繰り広げられるあり得ないコメディシーンやマヌケな彼女の一挙手一投足にゲラゲラ笑って、彼女のことを「愛すべきキャラだよね」、「ああいうヒロインもあり」、なんて上から目線で話して。

 

バカでまぬけだけど、なんとか生きてるブリジット。彼女のありのまま(just as you are.)の姿は、当時何者でもなかったごく普通の高校生である自分たちにとって、未来にあり得るかもしれない、自身の将来に非常に近しい女性像として映った。ブリジットの心情や言葉に共感し、ヒット作品のヒロインとしてそんな存在がいることを少しありがたくも感じていた。

 

反面、ブリジットのダメダメなキャラクターは「フィクションの中の架空の存在だから許されるパーソナリティ」だと、どこかで感じていたし、それが救いでもあった。まさか自分たちはそんな大人にはならないだろう、と思っていたから。

 

あの頃、一緒にブリジットを笑っていた友人は2年前に結婚し、故郷を離れ旦那さんの実家の近くでもうじき1歳になる元気な男の子を育てている。(以降、匿名Fくんとする。ただしFくんの話が出てくることがあれば)

 

対する私は、都内にオフィスを構えるメーカーの広報の一員として働いている。メディアからの連絡を受けたり、イベントの司会をしたり… そう、奇しくもブリジットが作中の出版社で担っていた業務に非常に親しい仕事をしている。

“広報関係の部署”と人に話すと、「花形部署だ」と羨ましがれ、華々しいバリバリのキャリアウーマンをなぜか想像されてしまう。そしてその人の中で“きっと仕事ができる優秀な人なのだろう”と私に対する間違った印象が勝手に出来上がることが多い。(非常にありがた迷惑)

 

高校生だった私達は映画を見て

「あんなに仕事をサボって友達と電話してる人なんていないはず」

「上司や取引先の偉い人と仕事にかけつけてエロい連絡なんかしないはず」

「あんなミニスカートやシースルートップスでオフィスにでかけるはずない」

なんて彼女のダメな働き方はさすがにフィクションの産物だろうと思っていたけれど、実際に社会人になり働き出してみれば、現実に生きる私の毎日もそんなもんだった。

 

コロナ禍でリモートワークが当たり前になり、在宅勤務の日には友人との旅行の予定を電話で話しながら資料を作ったり、仕事に繋がった関係者と「いつ飲みに行けるか」の打ち合わせが捗ったり。何ならオフィスカジュアルが浸透しているうちの会社は、ミニスカートも髪のハイライトも、厚底サンダル出勤も(偉い人は目くじら立ててるけど)容認されている。

友人の中にはZoom会議中、することがないからスパイスカレーの玉ねぎを2時間炒めていた人までいる。(顔出しがなくて助かったらしい。綺麗なあめ色にできたって)

 

ブリジットも、作中には彼女がちゃんと働いているのか、何の仕事をしているのかわからないけどとりあえずサボってる、そんな描写は多かったが、まさか自分がそのポジションにいる怠惰な人間だったとは、高校生の頃には夢にも思っていなかった。

5日に一回、いや、2週に一回、いや、半期に一度、上司が喜ぶ大手柄を挙げられたらいい方。(これもブリジットみたいで書いてて嫌になりかけた)

 

そのうえ、今の私は独身、料理のセンスもなし、もちろん子なし、そして特定の恋人もいない。仕事だけではなく、プライベートの状況まで彼女そっくりの“シングルトン”になってしまった。その上部屋の汚さも酷似しているのでマジで救いようがない!

 

ブリジットと私の違うところといえば、私がまだ20代半ば(この歳でこの状況)で、ロンドンのおしゃれなフラットとは程遠い東京の狭い1DKに住んでいて(もちろん23区外)、体重は50キロもないくらいの細身、そして彼女のように破天荒な日々を送っていないところ。

ノンスモーキング、ノーアルコール。真面目とまではいかないけれど、彼女と比べれば随分と質素な生活。時代が違うから単純に比べられない部分はあれど、何ならブリジットよりも「惨め」やら「かわいそう」やらとあの作品の名なら言われていてもおかしくないと思う。

 

それでも、現実の私は就きたかった職業に就き、少しばかり仕事ができない姿を周囲に晒しながらも、ある程度の収入と一人で生きる自由を得て楽しく暮らしている。

23区の内側に住めるほどの高給取りでもバリキャリでもないけれど、おかげでストレスも、仕事のプレッシャーもない、ほどほど穏やかで豊かな毎日を手に入れた。

 

好きな服を着て、好きな時に人に会い、好きなものを食べる。結婚願望もない分、まだまだアプリで知り合った男の子と適度に会って時間を潰したりするくらいでちょうどいい。(将来の自分は今の私をどう振り返るのか、)

 

ブリジットは好きだけど、彼女のような女性になんてなるものか。心のどこかでそう思いながら映画を見ていた高校生の自分は信じないかもしれないけれど、ブリジット・ジョーンズのような毎日もかなりいいものだと今では思う。

 

この3連休、空いてる時間があればどこかで会えないかとあの友人から連絡があった。結局、F君(再び登場)の肌に蕁麻疹が出てしまい、予定はなくなってしまったんだけど。

 

10月に入って暑すぎるほどだった気温が急激に低くなり、F君のお肌が敏感になっているかもしれないらしい。長袖か半袖か、着せる服にも迷うそうだ。子育ては、これまた高校生の頃に想像した以上に大変なようで、自分の気ままな暮らしを一層いとおしく感じる。

 

「いつかお互いに大切な家族ができたらこの変なセーター着てクリスマスパーティーしようね!映画みたいに!」

 

作中でブリジットと恋する相手、マーク・ダーシーがパーティーでトナカイ柄のセーターを着ているシーンに洋画好きとして憧れた。翌年、H&Mで見つけたおかしな柄のセーターを抱えてレジに並びながら約束したことを、あの子はまだ覚えているだろうか。

 

久々のあの子とのやりとりと、すっかり冷たくなった風を受けて、今日はあのセーターを思い出した。

もう10月だ。今年もまた、一人で過ごす(かもしれない)クリスマスがもうすぐそこまで来ている。

 

冬が来る前にすべての服を整理しよう。そして今年こそ、あのセーターに袖を通す!

 

ーーーー

 

今週のお題「急に寒いやん」